よく耳にする「メンタル」という言葉。
スポーツ業界には「メンタルコーチ」という職業があり、選手が過酷な練習を乗り越えて目標達成するためのサポートをしています。
身体とメンタルは密接に繋がっている認識が広まり、両方を鍛えることが大切という考え方が広がりつつあります。
ビジネスシーンでは、社員向けにメンタルトレーニングやメンタルケアを取り入れる会社も増えてきています。
2021年に実施された厚生労働省の調査によると、メンタルヘルス不調により休職や退職をした労働者がいた事業所は全体の10.1%、更に1,000人以上の規模の事業所数では92.6%にものぼったそうです。
メンタル不調に悩む人が増えているなか、健康的なメンタルを維持するために、うまくコントロールすることの大切さが増しているといえます。
参考:厚生労働省 令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況
メンタルとは?
そもそもメンタルとは何でしょうか。メンタルが強い人・弱い人と言われますが、その定義について説明できる人は少ないかもしれません。自分のメンタルをコントロールできるようになるためにも、まずは意味を正確に理解しましょう。
メンタルの意味
メンタルについてデジタル大辞泉で調べると「知能や精神に関わるさま。精神力や心情の意味で用いられることもある」と出てきます。
厚生労働省によると、メンタルヘルスについては「精神面の健康」と定義しています。
最近はストレス社会と言われており、日常生活の中でたくさんのストレスを受けています。
ただし、ストレスが全て悪いわけではありません。
適度なストレスはモチベーションを高め、身体を活性化してくれます。
例えば、スポーツで周りからの期待に応えようとする選手のパフォーマンスがあがるなどです。
しかしストレスを受け続けていると、身体の反応をコントロールする機能が低下してきます。
そして、身体を正常な状態に戻すことが難しくなってしまうのが「メンタル不調」の状態です。
逆に、メンタルを上手くコントロールできれば、健康を保ちやすくなるのです。
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット
メンタルが強い人、弱い人とは?
メンタルの強い人、弱い人、とよく言われますが、それは生まれつきなのでしょうか。
もちろん生まれつきの性格も関係がないとは言えません。
しかし、久々に友人に会ったとき
「自信ありげで、なんだかメンタルが強くなったように見える」
「疲れていてメンタルが弱くなっているように見える」
と感じることはありませんか。
メンタルの強弱はその人の経験などで変わることがあります。
つまりメンタルの強さ、弱さは後天的な面もあるのです。
メンタルの強弱は、ストレスに対する反応の違いとされています。
現代社会に生きる限り、どのような人でもある程度は同種のストレスを受けます。
それでも健康なメンタルを維持できる人と、不調をきたす人で違いがでます。
その理由は、メンタルを上手くコントロールする方法を身に付けているかどうかの違いが大きいのです。
メンタルが不調なときの症状
「自分は大丈夫」と思っている人でも、いつの間にかメンタルに不調をきたしてしまう場合があります。
症状が進み、日常生活に大きな影響が出るようになってしまうと、これまでの生活を送れない自分にストレスを感じて更に落ち込む、という悪いスパイラルに陥る可能性があります。
そのため、メンタルの不調は、早い段階で対処することが大切になります。
ここでは、メンタル不調のときに表れやすい症状を紹介していきます。
なお、紹介する症状が全てとは限りません。初期段階ではなく深刻化してしまっている可能性もありますので、あくまで一例と考えてください。
違和感を感じたら、すぐにお医者さんや専門機関に相談しましょう。
参考:厚生労働省HP こころの病気の初期サインに気づく
うつ状態
一日中気分が落ち込んだり、何をやっても楽しめない、といった心の状態です。
身体面では、食欲が低下したり、疲れやすくなる、だるさが取れない、イライラが続く、集中力が低下する、といった症状があります。
うつ状態は、特別な病気ではなくても発症し、うつ病として深刻化すると自力で回復するのが難しいケースが多いとされています。
そうならないためには、ストレスを溜め込まない自分自身のメンタルコントロールが必要です。
行動が落ち着かない
常に何かに不安を感じており頭から離れない状態が続くと、それを紛らわせようと行動に表れることがあります。
例えば、意味もないのに歩き回ったり、同じ行動を何度も繰り返すなどです。
自分では知らず知らずにうちにやってしまっていることもあるため、周囲が知らせないと本人も気づかないかもしれません。
自分で「最近そういえば」と思い当たることがあれば、周囲に相談してみるのも早い段階で異変に気付くための一つの方法です。
暴飲暴食
行動が落ち着かなくなる症状の一種に、一つの行為に偏り、それを止めづらくなる場合もあると言われています。
よく見られる例が、暴飲暴食です。仕事のストレスで、ついついアルコールを飲みすぎてしまい、それが日常化してアルコールが手放せなくなる、という例は聞いたことがあるのではないでしょうか。
仕事だけでなく、育児や家事が多忙で相談できる人がおらず、不調をきたしてしまうこともあります。
特に近年は核家族化が進み、育児中の女性にもよく見られるそうです。
ミスを連発する
集中力が散漫になり、普段ならしないミスを何度もしてしまうことがあります。
悪化しやすい性格もあるそうです。
生真面目だったり、完璧を求める性格の人は、思うように行動できなかったり、犯したミスをゆるせず自分自身を責めてしまい、負のスパイラルに陥ってしまう場合があります。
メンタルの不調は、何らかの形で自分のメンタルのコントロールを失いつつある状態です。
「誰にでもあること」
「リフレッシュすれば大丈夫」
と考えて、ネガティブに考えすぎないようにすることも大切です。
モチベーション低下
好きだった趣味や仕事に興味を持てず、やる気が湧かない状態です。
常に気になることがあって仕事が手につかない、勉強が手につかない、という経験がある人もいるのではないでしょうか。
適度なストレスはモチベーション向上に繋がりますが、過度のストレスは不安のストレスによりメンタルのコントロールに支障をきたします。
感情の幅が激しい
ストレスの影響でメンタル不調をきたすと、普段よりちょっとしたことで不安を感じやすくなります。
その表れとして、イライラしたり気分が落ち込んだり、感情の起伏が激しくなると言われています。
感情が不安定だからといって、必ずしも精神疾患だったり、その前触れとは限りませんが、長く続く場合はお医者さんに相談しましょう。
メンタルが強い人の特徴
メンタルが強い人とは、どのような人でしょうか。
ここまでメンタルの不調は誰にでも起こり得ることを説明してきましたが、逆に、メンタルの強い人がやっているメンタル管理の方法を取り入れることができれば、自分のメンタルを強化することに繋がるはずです。
メンタルが強い人は、自分の感情をコントロールし、ストレスを過度に受けない習慣を身に着けています。
また、自分のメンタルが落ちそうな予兆を察知し、初期の段階で対処することができます。
ここでは、上手くメンタルをコントロールする方法を紹介します。
1.プライベートを楽しんでいる
多くの人が知っているとおり、気分転換は大切です。
仕事で緊張感のある状況が「オン」だとしたら、プライベートを「オフ」として切り替えて楽しみましょう。
人によっては
「仕事などが頭から離れない」
と、プライベートを楽しむことができない人もいます。
ストレスを開放することでかえって仕事のモチベーションや効率が上がる場合があるため、忙しくても、敢えて楽しむ時間を作ることがおすすめです。
2.自分の意見を言える
人はコミュニティを必要とする生き物だと言われています。
職場の同僚、上司、結婚相手、恋人、友人、家族など、多くの時間を他人と一緒に過ごします。
そして円滑な人間関係を築くためには、お互いに我慢が必要なときがあります。
しかし過度に我慢を続けるのも良くありません。
自分自身の意見を堂々と言える人は、ストレスを受けづらいと言われています。
3.八方美人ではない
皆さんの周りで、嫌われることを恐れず自分の主張をしっかり主張する人はいませんか?
人にもよりますが、そういった人は周りから色々と言われていても、生き生きと行動しているように見えることがあります。
それは過剰なストレスを受けていないからかもしれません。
人は他人の評価のために自分の考えを曲げて行動したり、何かをやらされているときは、ストレスを感じています。
一方で、自分自身の目的のために必要な行動を取っているときは、ストレスを受けたとしてもポジティブなモチベーションに変えることができます。
4.休みの取り方が上手い
メンタルが強い人は、自分がリラックスできる状態をよく理解しています。
ストレスを受けたら早い段階で休みを取り、自分がリフレッシュするように動くのです。
「できたら良いけど実際は難しい」
と感じる人は
「今の状態で自分が仕事すると他の人に迷惑になってしまうので、敢えて休んだ方が周りのため」
とポジティブに考えてみてはいかがでしょうか。
5.人を頼れる
抱えていた不安や悩みを誰かに打ち明けることで心が軽くなった、という経験をした人は多いのではないでしょうか。
人は自分と似た人を探していると言われており、自分の不安に共感してくれる人がいるだけで安心するものです。
家族や友人、恋人など信頼できる人にストレスを打ち明けるだけでもリフレッシュになります。
ストレスや不安への対策
ここからは、日頃からできるストレスを受けづらくするための対策、つまり予防策について説明します。
十分に睡眠をとる
睡眠は身体とメンタル、両方を整えるために重要な習慣です。
睡眠時間が短すぎる人は、ぜひ十分な睡眠時間を確保してください。
一方で、長く寝ていれば良いという訳でもありません。
寝るときにネガティブなことばかり考えていると、朝起きたときも気分が沈んでしまうものです。
就寝前はポジティブなことを思い浮かべるようにしましょう。
例えば「今日の一日で自分がやれたこと、頑張ったと言えること」や、思い浮かばなければ「今日も一日、自分はよく頑張った!」と、とにかく自己承認するのも良い方法なので、試してみてはいかがでしょうか。
外で気分転換をする
最近はテレワークをする人が増え、外出する機会が減った人も多いのではないでしょうか。
テレワークには良い面がある一方で、メンタルにとってネガティブな面もあります。
厚生労働省によると、テレワークにより普段の何気ない会話を通した相談ができず孤独感が増したり、勤務環境が整っていない家の中で仕事をすると、効率低下をストレスに感じることがあるそうです。
適度に外の空気を吸うだけでも良い気分転換になります。
最近めっきり友人にも会っていないという人は、久々に友人に会いに行ったりするのもおすすめです。
参考:テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き
自分の好きなことに没頭する
仕事や家事など、やらなければならないことをこなすことに一生懸命で、自分が本当にしたいことを我慢する状況が続くのは好ましくありません。
時には、気持ちを心から楽しめることに注ぐようにしましょう。
旅行や趣味、友人とお茶に行って会話を楽しむなど、自分が楽しめる時間を普段からしっかり設けておくのも大切なことです。
ストレスの要因をきちんと把握する
どのようなことにストレスを感じるのか、それは人によって様々です。
自分がストレスの要因をきちんと把握することで、うまく回避したり、コントロールできると良いですね。
例えば「自分は仕事の期日がギリギリになるとストレスを感じやすい」ということが分かっていれば、「余裕をもって仕事を終わらせられるようにスケジュールを立てる」という対策を打てます。
メンタルトレーニングをする
人はストレスに対して、どう反応するかを意識して選べる生き物だと言われています。
メンタルトレーニングをすることで、ストレスに対する効果的な対応方法を身に付けることができます。
例えば、たくさんの人に見られて批判されることも多い芸能人。
厳しい業界を生き抜くためにも、メンタルトレーニングを定期的に実施する芸能事務所もあるそうです。
スポーツの世界でもメンタルトレーニングは取り入れられています。
4回転ジャンプなど一瞬に極限の集中力とストレスがかかるフィギュアスケート。
半年以上のメンタルトレーニングを継続的に行う事例もあるそうです。
企業でも社員向けのメンタルトレーニングが広がりつつあると言われています。
自分に合ったトレーニングを探してみても良いかもしれません。
さいごに
日頃からメンタルの浮き沈みに悩んでいる人も多いですが、それは他の人に比べて劣っているわけではありません。
メンタル不調は誰にでも起こりうることですし、適切に対処すればストレスを緩和したり、ストレスを過度に受けない習慣を身に付けることもできます。
大切なことは自分の性格をよく理解して、自分のメンタルをコントロールできるようになること。
そうすればいわゆる「メンタルが強い人」になれるでしょう。